喋る鏡


 通販で喋る鏡を買った。
 最新式でこれひとつあれば肌の管理もばっちりだという。

「ギギィ、ウィ、ウィーーーン」
 封を開くとまだ何も触れていないのにいきなり起動音が鳴った。

「今日もお綺麗ですよ」

 ひどく唐突な鏡。ていうか機械に誉められてもあまり嬉しくない。むしろ不快だ。

「メラニンが20%カットされていますね」
「きゃ、やだあ」

 どこからかニョキっとメカアームが出てきて私の顔によくわからないジェルを塗りたくった。

「保湿完了。七割成功しました」
 残り三割は。

「ギーギー。手順を誤りました。名前を」
「名前? ああ、私の名前は」
「違います。あなたの名前はどうでもいいです。私に名前を付けて下さい」

 言うなあ、この鏡。それにしても鏡に名前なんて聞いたことない。何がいいかなあ。

「早く決めてください」

「早く決めてください」

「早く決めてくださぃ……チッ」

 おいおい、舌打ちしやがったよこの鏡。
「早く決めてくださ」
「ポチ。名前はポチでよろしく」
 粗暴な鏡に少しカチンと来た私は反撃を試みた。

 ウィーン、ギギー。

「認識しました。よい名前ですね」
 どうやらこのあたりの識別能力はないようだった。

「早速ですが、このままだと二年後にあなたの肌は崩壊します」
「崩壊?!」
「ええ。とりあえず応急処置としてUVカットを施します」

 再びメカアームが出てきたかと思うと、あれよあれよという間に私の髪型はUVカットになってしまった。その場に泣き崩れる私を認識したのかどうかは分からない。ポチは言った。

「実はちょっと失敗しました」

「ふざけないでよ!」
 叫びながら振り向くと、自ら掃除機になったものの、床に落ちた髪を吸い切れずに咳き込んでいる彼と目が合った。そこには自分の間抜けな顔と見事なUVカットが映し出されていた。

 ウィーン

 鏡なのか掃除機なのか、もはやよく分からないものの動く音を聞きながら、私は考えていた。クーリング・オフってどうやるんだろう。



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