家庭教師生徒



※家庭生徒 生徒が先生の家に行き授業を受ける未来型教育システム

「先生、ここの計算なんですけど」
「あーこれな。これはまず」

「タカシ? 私のシャツドコ?」
「ミシェル、まだ乾いてないよ」
「ソウナノ? 愛シテルワ、タカシ」
「僕もだよ」

 先生は僕の前で十五秒間のディープキスをした。

「ごめんごめん。ここだったよな? これはちょいちょいっとやれば大丈夫だ。ていうか無理なら答え見なよ」
「はあ」

「あ、それと先生。この英文の和訳なんですけど、これで合ってますかね」
「どれどれ」

「ねえ、今日のおやつまだぁ?」
「達也、戸棚にケーキが入ってるよ」
「わーい」
「ははは、現金な子だなあまったく」

 先生は僕を全く無視して男の子とおやつを食べた。

「えーっと……なんだっけ?」
「……この英文なんですけど」
「ああ、そうだったね。クミはケンが好きだ、か。間違ってはいないけど、もう少し大胆に訳してもいいな」
「大胆に、ですか」
「ああ。この場合のネイティブな訳はクミはケンとセックスがしたい、だ」
「え、今なんて」
「いいか。人に対するlikeはセックスしたい。hateは殺したい。あとlikeに似たのでloveってのがあるが、これは特殊プレイがしたいって意味だ。SMなんかがポピュラーだが先生は」
「……先生」
「おおっと、中学生にはまだ早かったかな、ハッハッハ」
「先生」
「どうした、急に立ち上がって」

「僕、辞めます」

「どうしたんだ急に」
「急じゃありません! この家に入った時から無理だと感じてました」
「どうして」
「ワンルームだからです」

 ……

「仕方ないじゃないか、先生だって」
「そもそも教え方だっていい加減だし、もう限界です」
「すまなかった。謝るよ」
「それに、授業中くらい静かにしてくれてもいいのに……」

 僕は横目でチラリと先生の子供を見る。
 「達也」はさっきからずっとプレステを大音量でやり続けている。

「それもそうだな。よく言ってきかせるよ」
「無駄ですよ。先生が先生なら子供も子供だ。最低だ」
「は? 君は何を言ってるんだ」
「揃いも揃って最低な家族だって言ってるんです!」
「家族?」

「タカシ、ココの計算ナンダケド」

「……」
「家族だなんて一言も言ってないだろう。この子たちは僕の生徒さ」

 そう言って先生とミシェルはまたディープキスを始めた。



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