少年と靴


「まもなく、男子100mのスタートです」
(おい)
(どうした)
(小便してえ。便所連れてって)
(いや無理だろ。もうスタートだし)
(漏れそう)
(靴の分際で)
(あーマジもう限界)
(漏らせば)
(いいのかよ。ベタベタだぞ。お前の靴ベッタベタ)
(……我慢しろよ)
(無理だって)
「いちについて、よーい」
(始まる)
(ちょ、タンマ)
「ドン!」
(ちょちょちょ、漏れる。揺らすな。おい)
(うっせえ。我慢だ我慢)
(あー限界。振動が響く)
(大体なんで靴に生理現象があるんだよ)
(こっちが聞きてぇよ)
「赤団トップ! 赤団早い!」
(おい、今ちょっと出したろ)
(うるせぇ。ちょびっと漏れただけだ)
(うわー足元冷てぇ)
(ていうかマジ限界。出る)
(待てって。もうちょっとだから)
(あ、ゴール手前に便所あるじゃん。あれ寄ってよ頼む)
(いや無理だから)
(いいのか。漏らすぞ)
(いいよもう。一着取れそうだし、漏らせば)
(言い忘れたけど、俺の小便上に向かって出るから)
(はあ?)
(全身小便だらけになるぞ)
(マジかよ……)
(小便だらけの一着か、ビリか)
(……)
(どっちがマシか、分かるよな?)
(……)
(すまねぇな。俺のせいで)
(俺は)
(え?)
(……俺は、絶対トップになるんだ!)
(な、なんだと)
(一着でゴールする)
(お、落ち着け!どうなるか分かって)
「おおっと、ここでトップの生徒靴を脱ぎ捨てたーっ!」



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