私のおじいちゃん


 洗面所へ行ったら珍しく祖父が髪のセットなんかをしていたので、後ろからこっそり盗み見ることにした。
 改めて祖父の髪を見る。色はほとんど真っ白だが、量の方は軽くセットできるくらいには残っているようだ。 普段気にすることはなかったが、歳の割にそこらへんの身なりはちゃんとしている。
 自分専用のくしらしき物をおもむろに取り出すと、サラッと髪に通し、サイドの毛を後ろに流していく。
 ンフンフーン、とかなんとかよくわからない鼻歌を歌いながら、セッティングをする祖父。
 今日はどこかへ出かけるのだろうか。角度を変えたりして念入りに髪型をチェックしている。

 もう七十も越えてるっていうのに、おじいちゃんったら。

 私は祖父の仕草がなんだかちょっとかわいらしくってクックと笑ってしまった。
 入念なチェックを終えると、祖父は棚からヘアスプレーを取り出して頭に思いっ切り吹きかけた。

 シュー。シュシュー。

 おじいちゃん、付け過ぎ。

 祖父は本当に嬉しそうに頭のそこらじゅうにスプレーを散布しまくっている。
 さては今日はデートかしら。苦笑しながら、私はその場を去った。
 


 数日後、洗面所の棚でほとんど空になったキンチョールの缶を見つけて、私は何ともやりきれない気持ちになった。



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